デジタルが、絵を描くということについてのハードルの高さを下げてくれているのは間違いないと思っています。
私自身、最初はデジタルで絵を描く予定はまったくなくて、水彩の入門本を2冊買って、必要な道具(ホルベインの水彩絵の具を25色くらい、筆、パレット、スケッチブック等)を画材店で買い求めました。透明水彩というものがあることも本を読んで初めて知りました。いざ、何か描こうと思って絵の具をパレットに出そうとした時に、もう一回入門本を読んだところ、透明水彩絵の具は、絵を描く前にパレットにすべてほぼ決められた順番に絵の具を出してセットしておかなければいけないと書いてありました。それまで小学校や中学校の写生で使っていた絵の具しか知らなかった私にとってとても面倒に感じた瞬間で、なぜか、その日は絵をかくことをやめてしまいました。実はそれ以来、水彩絵の具の画材は封印したままです。絵を描くことが少しハードルが高いなと感じた瞬間でもありました。今では少し余裕がなかったのかなと思っています。
スマホが普及してスマホのカメラとアプリがどんどん高性能になり、それまでは記念撮影くらいしかしなかった人が、素晴らしい写真を公開されるようになってきています。そこには、その人なりの世界観が反映されています。スマホにより、新しい写真を楽しむ世界が形成されたのです。
iPad proとApple pencilに触れた瞬間、iPadで絵を楽しむ世界が形成される時が始まったと感じました。いつでもどこでもiPad proのスイッチを入れればすぐに絵を描き始めることができます。また、やめるときもスイッチ切るだけです。描いた絵はSNSを通じて世界中の人に瞬時に見てもらうことができます。絵を描くということについてのハードルをの高さをiPad proとApple pencilが一気に下げてくれたと思っています。
iPad proとApple pencilを手に入れればすぐに絵が描けると思っていたのですが、現実はそんなに甘くありませんでした。ハードウェアの性能にソフトウェアの性能が追いついていなかったのです。絵を描くことを始めるとき、最もハードルが低いのは身近な風景を水彩風に描くことだと思い、水彩ブラシがあるアプリを片っ端から試していったのですが、まったく思うように描けるアプリがありません。そもそも、お絵かきアプリのほとんどがアニメを描く機能がメインでそちらの機能は優れているのですが、水彩機能はおまけ程度だったようです。ですので、最初の1年は絵を描くというより試し描きのみで時が過ぎて行きました。そんな中でもiPad proが発売されてから1年近く経つと水彩機能も進化した良いアプリが出てきました。それがTayasui Skeches Proです。私もこのアプリで50枚ほど描きました。
Tayasui Skeches Proの良いところは色の扱いです。パレット上で二つの色を選んで混ぜて新しい色をつくることができます。この機能は強力で、自分が思う良い色が直感的に作れるのです。特に補色同士を混ぜて作る微妙な影の色は他のアプリでは真似できません。
デジタルでどうしようもないのが筆のタッチです。こればかりは所詮ペンなので、筆先が割れた筆先で描いた木の葉っぱのようなタッチは描くことはできません。これを実現するには、いろいろなタッチのブラシを自作して登録して、そのブラシを使い分けることになりますが、現実的ではありません。
また、本当の筆なら描き始めの筆先の細いタッチから、筆圧をかけて太くして、最後に筆を話すと細いタッチで終わるというようになりますが、デジタルだと、描き始めはアプリで設定された細めのポイント数となります。描き終わりもそうなるので、本当の筆のタッチとはかなり異なります。ですので、デジタルはシャープで細い線の描き出しと終わりができないので、基本は始点も終点もボテっとした感じになります。これをどうやって誤魔化すかということがデジタルで絵をかくことのテクニックでもありますが、限界も見えてきます。
そんなときにAdobe Fresco がリリースされました。
Adobe Fresco を紹介している記事の多くは、最も優れたところとしてAIによる独特の色のにじみ具合を取り上げていましたが、本当に素晴らしいところは基本となる水彩ブラシのタッチが絶妙なところです。筆圧と連動したブラシの書き出しと終わりがかなり自然な感じで誤魔化しやすいことです。それも、何も設定をいじることなくデフォルト状態のままでバッチリです。
ということで、現在はこのタッチを優先してAdobe Frescoのみで描いています。このAdobe FrescoにTayasui Skeches Proが持つパレット上での色の混色ができるようになると良いなと思っています。